東アジアの風見鶏

政治と外交と軍事についてです。

融和姿勢を崩さない文大統領と強硬姿勢を強く訴える安倍首相

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韓国ではいま平昌オリンピックが開かれておりますが、それと同じぐらい注目されているのが北朝鮮の動向です。

www.sankei.com

 スポーツに政治は持ち込まないという原則があるはずなのですが、韓国のアイスホッケーチームに北朝鮮の選手を参加させ、南北合同チームで出場させる韓国政府をはじめ、日本も安倍首相がオリンピックの開会式をきっかけに日韓首脳会談を行うなど、オリンピックに並行して様々な外交合戦が繰り広げられています。

さて、そのような中で韓国では韓国政府主導の北朝鮮との対話ムードができあがっていますが、オリンピックに訪問中の北朝鮮の高官が南北首脳会談の可能性を示唆しました。

文大統領としては韓国左派の念願である南北首脳会談をなんとしても実現したい意向ですが、安倍首相から経済制裁による圧力を強化するよう要請されています。

北朝鮮との融和姿勢を崩さない文大統領と北朝鮮への強硬姿勢を強く訴える安倍首相の対比は、日韓の連携を崩すことが目的である北朝鮮にとって、まさに願ったり叶ったりでしょう。

なぜこのようなことが起きるのでしょうか、これはアメリカのトランプ政権が対北朝鮮外交において統一した見解を持たないことが見解でしょう。日本も北朝鮮も韓国もトランプ政権の顔色を伺いながら外交を行っておりますが、ペンス米副大統領が「直接対話は可能」と言ったと思ったら「核兵器を破棄するまで最大限の圧力をかける」など、相反するメッセージを織り交ぜており、アメリカの外交方針が読み切れないためです。

文大統領は南北首脳会談を実現させるために、米韓合同軍事演習についてあいまな姿勢をとっていますが、この北朝鮮による微笑外交によって核開発の時間稼ぎとなり、東アジアの緊張につながらないことを願うばかりです。

リチャード・マクレガー「中国共産党 支配者たちの秘密の世界」

書評です。  

中国共産党 支配者たちの秘密の世界

中国共産党 支配者たちの秘密の世界

 

 中華人民共和国を支配する中国共産党について書かれた本です。中華人民共和国憲法よりも上位に位置する中国共産党は、社会のあらゆる面で矛盾が生じさせています。その中で最たるものは「社会主義市場経済」です。

政治の面は中国共産党が支配し、経済の面では市場経済を導入する。「社会主義市場経済」は中国最大の矛盾です。なぜこのようなことが中国は起きるのでしょうか。

この本のあとがきでもこのように述べられています。

毛沢東後の共産党が「経済成長」と「ナショナリズム再興」という二つの基礎を強化してきたと言うことだ。

中国共産党は「経済成長を達成した」ことを喧伝したことに加え、「中国共産党大日本帝国を倒したのだ」という形でナショナリズムを煽ります。そうすることで中国共産党による支配を正当化したいのです。

また、中国共産党が最も恐れるのは自らの正当性を批判する言説です。中国のネット上では中国共産党を批判する者がいないか監視されます。

更に、経済的に豊かになった中国では民主化を求める運動が多くあります。2010年にノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏は中国の基本的人権民主化の運動を行っていましたが、中国政府によって投獄され、2017年に亡くなりました。

民主化の声を抑えつつ、経済成長のため国営企業中国共産党の息がかかった人物を派遣したり、抗日施設を全国各地に設置したりするのは、自らの正当性に傷がつくのを恐れているからです。

このように中国共産党がどのような行動原理で動いているのか、それはどのようなメリット・デメリットがあるのかを知りたい方には本書がオススメです。

峯村 健司「十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争 」

書評です。 

十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争

十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争

 

朝日新聞の特派員が書いた、中国、というよりも中国を支配する中国共産党の権力闘争について書かれた本になります。

とはいいつつも、この本は実に様々な内容を取り扱っており、例えば・・・
・ロサンゼルスにある中国高官の愛人村とは?
・アメリカのオバマ大統領と中国の習近平のトップ会談で話された中身とは?
習近平の一人娘はハーバード大学にいる?
などなど現在の中国事情について興味深い内容が多く書かれています。

中国の政治事情について興味が湧いたときに、最初に知るための一冊として重宝する本です。

小倉 紀蔵ほか「現代韓国を学ぶ」

書評です。

現代韓国を学ぶ (有斐閣選書)

現代韓国を学ぶ (有斐閣選書)

 

 本書は現在の韓国を韓流文化から、政治・経済・社会や安全保障、そして在日コリアンの問題など様々な面から韓国を解きほぐしており、韓国とはいったいどんな国なのかという問に様々な面から答えてくれる本です

「ほか」と書いている通り、序章と最終章以外の章はそれぞれの韓国の分野に詳しい方が分業して書いています。著者が書いている箇所で最も参考になったのが以下の記述です。

日韓は抱えている問題が似通ってきているのであり、それに対する解決策も、日韓でほぼ同時に提示されるという時代になってきている。(省略)「相手国に学ぶ」といっても、それはそこに正解があるという意味ではなくて、相手国の試行錯誤や失敗も含めて参照するということである。

この本を読んで感じたのは、韓国も日本と同じように少子化問題があり、米国との関係、中国との関係など、日本と同じ問題点があるということです。

そのため、日本と韓国は互いに問題に対して具体的にどのような解決策を行ったのか、そしてそれは成功したのかということを互いに参照する必要があります。そうすることで、自国の政策を評価することができるのです。 歴史問題など様々な面で対立している日韓ですが、抱える課題は共有した方がいいでしょう。

木宮 正史「国際政治のなかの韓国現代史」

書評です。

国際政治のなかの韓国現代史

国際政治のなかの韓国現代史

 

 大日本帝国朝鮮半島から引き上げた後、朝鮮半島には権力の空白地帯が生まれ、ソ連の影響を受けた北朝鮮、アメリカの影響を受けた韓国に分裂しました。その後の冷戦によって朝鮮戦争ベトナム戦争が勃発し、複雑な国際情勢で韓国はどのような経緯をたどったのか確認できます。

更に光州事件に始まる韓国の民主化は、それまで独裁だった韓国の政治を劇的に変化させ、そこから北朝鮮への太陽政策通貨危機、中国への接近へと、現在までつながる韓国政治について丁寧に理解できます。

本書は歴史的な事実を淡々と記述されており、良くも悪くも教科書的であり、辞書的です。この本によって現在の韓国事情が理解できるものではありませんが、韓国史の事実について調べたいときにこの本は重宝するのではないでしょうか。

日本政府が口出しできるのは大使館前の慰安婦像だけ

世界中で乱立する慰安婦像ですが、それについて外務省が懸念を示してしているようです。

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日本政府としては慰安婦問題の象徴となっている慰安婦像が世界中に乱立する状況が、芳しくないと考えているようです。特に日本の政治家にとっては対外的に米紙に「慰安婦強制連行の証拠はない」という主張を「THE FACT」というタイトルで意見広告を出したことがあるため、国際的に慰安婦問題が拡散するのは恐るべきシナリオでしょう。

 

ですが、基本的に考えてその国に住む人が自由に像を設立するのは表現の自由の範疇です。日本政府も原爆を受けた被害から長崎に平和祈念像を設立しました。仮に長崎県平和祈念像を建設したことについて、アメリカ政府が像の設立を中止せよと申し入れた場合、どのような影響を与えるのでしょうか。

 

もし日本が口出しできる慰安婦像があるとしたら韓国のソウル市にある日本大使館前の慰安婦像、そして釜山市にある日本総領事館前にある慰安婦像の2体のみです。この二つは2015年に合意された日韓慰安婦合意の範疇に入っており、韓国政府はこの二つの慰安婦像何かアクションを起こす義務があります。

 

先月に文大統領は慰安婦合意を破棄しないと断言しました。そのため、韓国の慰安婦問題は韓国の国内問題となり、日本政府が追加で外交的にアクションを起こす義務は無くなったのです。それと同時に韓国政府は大使館前の慰安婦像の問題が適切に解決されるよう努力しなければなりません。

 

大事なことは世界中に乱立する慰安婦像についてオーバーリアクションをとらないことです。サンフランシスコに慰安婦像が設立されたときもそうだったのですが、本当は注目されるはずのなかった慰安婦像の設立が、日本が過剰にアクションをとったためにアメリカの主要メディアで報道されてしまう構図になってしまいました。

 

意見広告「THE FACT」もそうだったのですが、日本の政治家がこの広告を出したために、アメリカ合衆国下院121号決議という「従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議」に影響を出してしまったのは皮肉以外の何者でもありません。 日本の外務省を初めとした関係者は冷静に対処して欲しいと思います。

韓国政府の矛盾した慰安婦合意の新方針は文大統領の苦肉の策

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1月8日に韓国政府が日韓慰安婦合意について、新方針を発表しました。 https://www.asahi.com/articles/ASL194RPYL19UHBI00Y.html 新方針の内容については以下になります。

 一、韓国政府は慰安婦被害者の方々の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けてあらゆる努力を尽くす 二、この過程で、被害者や関係団体、国民の意見を幅広く反映しながら、被害者中心の措置を模索する。日本政府が拠出した「和解・癒やし財団」への 基金10億円については韓国政府の予算で充当し、この基金の今後の処理方法は日本政府と協議する。財団の今後の運営に関しては、当該省庁で被害者や関連団 体、国民の意見を幅広く反映しながら、後続措置を用意する 三、被害当事者たちの意思をきちんと反映していない2015年の合意では、慰安婦問題を本当に解決することはできない 四、2015年の合意が両国間の公式合意だったという事実は否定できない。韓国政府は合意に関して日本政府に再交渉は求めない。ただ、日本側が自 ら、国際的な普遍基準によって真実をありのまま認め、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けた努力を続けてくれることを期待する。被害者の女性 が一様に願うのは、自発的で心がこもった謝罪である 五、韓国政府は、真実と原則に立脚して歴史問題を扱っていく。歴史問題を賢明に解決するための努力を傾けると同時に、両国間の未来志向的な協力のために努力していく

どうやら、韓国政府は慰安婦合意の破棄はしませんでした。ですが、日本が自発的に謝罪を行うことを期待するという形で、日本に責任転嫁をした形になります。 文大統領の政権内や支持基盤は左派運動家たちです。運動家たちにとっては日韓合意は目の上のたんこぶで、一刻も早く破棄したいのが本音ですが、もし本当に破棄した場合、日韓関係は河野外相が言う通り「コントロール不能」に陥ることになります。韓国のナショナリズムと日韓関係に板挟みになった結果、打ち出されたのが今回の新方針だったと言えるでしょう。 韓国政府は、日本が「自発的」に謝罪をすることを求めていますが、日本はこれを拒否することができます。なぜなら、日韓両政府も日韓合意を破棄しておらず、合意の中に「最終的に不可逆的な解決」という文言がある以上、韓国政府は直接的に謝罪を求めることはできないのです。 ですので、日本政府はいままで通り「合意を履行せよ」というかたちで韓国政府に求めることが得策です。 問題はここからです。

二、この過程で、被害者や関係団体、国民の意見を幅広く反映しながら、被害者中心の措置を模索する。日本政府が拠出した「和解・癒やし財団」への 基金10億円については韓国政府の予算で充当し、この基金の今後の処理方法は日本政府と協議する。財団の今後の運営に関しては、当該省庁で被害者や関連団 体、国民の意見を幅広く反映しながら、後続措置を用意する

慰安婦47人のうち34人が既に、財団から現金を受け取っています。元慰安婦全員が「日本政府の現金は受け取れない」と断じることは、それこそ元慰安婦の声を無視することになります。さらに支給された現金も韓国政府の予算に置き換えるようです。これでは日本政府が拠出した現金が宙に浮く形になりますが、韓国政府はどう決着をつけるのか展望が見えません。 すくなくとも、韓国政府が少しでも慰安婦合意を反故するような姿勢や行動をした場合、日本政府は多様な対抗策を用意してほしいと思います。