東アジアの風見鶏

政治と外交と軍事についてです。

川口マーン恵美「ヨーロッパから民主主義が消える」

書評です。

 ドイツ在住の筆者だからこそわかる、現在のヨーロッパの分裂に原因について書かれた本です。

昨年に話題となったイギリスのEU離脱ですが、イギリスだけでなくフランスでは「国民戦線」が、ドイツでは「PEGIDA」が、イタリアでは「五つ星運動」が、というようようにそれぞれの国でEU離脱を叫ぶ組織が勢力を拡大しています。

このような勢力が伸長する大きな影響と鳴った事件が「ギリシャ危機によるEU全体の経済危機」と「シリア内戦によるヨーロッパへの難民の流入」を上げています。

そもそもEUとは自国通貨をユーロに変更したり、シェンゲン協定による国境解放などによって自国の主権を譲り渡すことによってはじめて成り立つ経済機構です。

そのような中で、ギリシャ危機によってEU各国の利害関係がむき出しになり、それは自国中心のナショナリズムの温床となってしまいます。そのような中で追い打ちになったのが、シリア内戦による難民問題です。崇高な理念を掲げるドイツと難民を救う余裕がないハンガリーなどの国によって、EUの統合の理念が揺らぎ始め、とどめの一撃となったのがフランス同時多発テロでした。

そしてそれがイギリスのEU離脱、さらに言えばイスラム差別を煽るトランプ大統領の誕生につながったのだと思います。

この本によって、私がぼんやりと考えていたことがはっきりと言語化された気がします。これからフランス大統領選によって極右政党が躍進するのか注目を集めていますが、躍進した場合EUの分裂は決定的になるでしょう。

藤原帰一「戦争の条件」

書評です。

戦争の条件 (集英社新書)

戦争の条件 (集英社新書)

 

 国際政治学者として有名な藤原帰一氏が書かれた本です。

国際政治で問題になっていること、領土問題・紛争・歴史認識ナショナリズムについて例を挙げながら述べていきます。

たとえば「A国に侵攻されたB国が、第三国であるC国に派兵を求めてきた、C国はどのような行動をとるのだろうか」という問いを上げながら、国際政治ではこのようなことが過去に行われ、このようなことが問題になっているという具合に、国際政治学について解説しています。

そのような問いから、私たちが国際政治をどのような視点で読み解けば良いのか、この本は示してくれるのです。戦争の条件とは、逆説的に言えばすなわち平和の条件でもあり、他国との戦争を防ぐためには、やはり国際政治学の理解は欠かせないものです。

遠藤誉「チャイナ・ジャッジ」

書評です。

チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男

チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男

 

 Newsweekで中国について連載している、遠藤誉氏の著作になります。

遠藤誉氏はこれまでに、中国政治、特に中国首脳とよばれる「中国共産党中央政治局常務委員会」の選出について解説した「チャイナ・ナイン」は一作目。

日本と中国との間で領土問題となっている尖閣諸島について歴史的経緯から、中国政府の「言い分」をつぶしていく「チャイナ・ギャップ」は三作目です。

今作は2012年に中国で失脚した薄煕来の生涯と失脚のきっかけとなった薄煕来事件について詳細に述べられております。つまり中国政府による薄煕来への判決「チャイナ・ジャッジ」に至るまでの経緯について描かれています。

薄煕来は中国首脳である「チャイナセブン」に選出されることが予想されるほど、中国共産党のトップまで上り詰めましたが、反対勢力によってチャイナセブンへの道が閉ざされて、その後に起こったのがあの失脚事件でした。

それによって薄熙来中国当局によって逮捕されることになり、一人の男の野望は閉ざされることになります。

この本でわかるのは、中国政府内部の混沌とした政治闘争であり、内政や外交の不安定化を招いている気がしてならないのです。

佐々木毅「民主主義という不思議な仕組み」

書評です。

民主主義という不思議な仕組み (ちくまプリマー新書)

民主主義という不思議な仕組み (ちくまプリマー新書)

 

 私たちが当たり前だと思っている民主主義について、古代ギリシャのポリスの民主政から現在までの議会政治について書かれており、高校生が読んでも理解できるぐらい平易な文章で書かれています。

この記事で民主主義とは何かについて書くつもりはありませんが、「民主主義の中での少数派」や「ナショナリズム」や「政党政治」など、いまの民主主義の仕組みや問題点を、根本から解説しています。

正直、私たちは現代社会という社会科目で「民主主義」について教わっているはずなのに、教科書特有の格調高い文章で全体として硬いんですよね。たとえば三権分立や、選挙制度などはその典型です。そのようななかで、民主主義について10代にも読みやすいかつ深い内容を扱っている本書は、その点で優れていると思います。

最後のコラムでは18歳選挙権を取り上げ、改めて民主主義とは何かを問い直すことができると思います。

裏口でも領事館近くに慰安婦像があるのがアウトなの。

少し前にこのようなブログが注目されていました。

tabisaki.hatenablog.com

このブログの主張は「慰安婦像は領事館の裏口に配置してあり、人通りの少ないところにあるのであまり問題にならない、日本政府は騒ぎすぎではないか」

という内容でした。

ウィーン条約の第二十二条にはこのような条文があります。

接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する。

話を整理しましょう。

少なくともウィーン条約の批准国には「公館の威厳を侵害する行為」を防止する責務があるわけで、韓国政府もそれを認知しているわけです。韓国には外国大使館の半径100m以内でデモをおこなうことを法律で禁じています。しかし、ソウルの日本大使館前では、記者会見の名目で水曜デモが行われており、2011年に像が設置されて以来、韓国政府がこれを黙認しており、日本大使館前ではウィーン条約違反の状態が続いておりました。

一番問題なのは韓国政府がこのウィーン条約の問題で各国にダブルスタンダードの姿勢をとっていることです。

在韓米軍の米兵が中学生をひき殺してしまった事件で、韓国の市民団体が犠牲者の記念碑を、駐韓アメリカ大使館近くに設置しようとしましたが、韓国政府はこれを許可しませんでした。その後、碑はアメリカ大使館から離れた場所に無許可で設置されましたが、これも後に撤去されています。

web.archive.org

また、中国大使館前に韓国の市民団体が「脱北少女像」を設置する動きがありますが、韓国政府の外交部は「設置されたら撤去せざるおえないだろう」と発言しており、この日米中の対応の差は、どう考えてもダブルスタンダードです。

zasshi.news.yahoo.co.jp

ですので、裏口とか人通りの少ない云々よりも、韓国政府にウィーン条約を守る意思があるのか、それが問題なんですよ。しかも、それをこちらの国には適用し、あちらの国には適用しないという恣意的な運用は、まぁ国家としてよろしくないよね。

追記:ちなみにソウルの日本大使館前の慰安婦像は、正面に設置されております。上記のブログの筆者の論理からすると、日本大使館前の慰安婦像はアウトになります。

米国の衰退と、国際経済の停滞

アメリカのトランプ大統領が出した大統領令が波紋を呼んでいます。

www.nikkei.com

ロイター通信が1月31日発表した世論調査結果によると、イスラム圏7カ国からの入国禁止などを命じたトランプ米大統領の大統領令に賛成する人が49%となり、反対の41%を上回った。27日の発令以降、全米で抗議活動が目立っているが、国民の間では賛否が分かれていることが明らかになった。

合衆国は様々な国籍のビジネスマンや学者が自由に競争できる国だからこそ、超大国を維持できたのだと思います。日本や中国や欧州の優秀な学者がアメリカに行くのは、優秀な学者たちが集まっていくからです。そのような中で上記の大統領令を出してしまうのであれば、研究者や起業家たちはアメリカを目指すことなど無くなってしまうでしょう。

jp.wsj.com

 米国の貿易政策の歴史に詳しいダートマス大学のダグラス・アーウィン教授はトランプ政権の当局者について、「必要なことを現実的にみているとは思えない」と述べ、貿易ルールの変更には「非常に複雑で時間が掛かる。米経済に大きな混乱を招かないことを確認する必要がある」との見方を示した。 

この行動も同様です。自由貿易圏を構築することで、自国の企業が参入できる市場を拡大することを、各国が血眼になって推進して他のですが、この大統領令は流れに逆行しています。しかも、米国には世界的な多国籍企業の本拠地が多くあります、多国籍企業が世界の市場にアクセスできなくなるのは、そのまま企業の衰退につながります。

この数週間でトランプ氏の経済認識があまりにも現実と乖離していることを、世界の人々は認識しました。事態が深刻なのは、入国禁止令などが一定の支持を得ていることです。ある意味ではとても民主主義的だと思いますが、この行動はアメリカの国益を確実に損なうことになってしまうと思います。

パン候補の出馬辞退により、中国に急接近する韓国。

日経ビジネスの鈴置氏のコラムみたいなタイトルのつけ方をしましたが、どうやら前国連事務総長のパンギムン氏が大統領選の出馬を辞退したそうです。

www3.nhk.or.jp

去年まで2期10年にわたって国連事務総長を務めたパン・ギムン氏は、年内に行われる大統領選挙に立候補する意向を示し、保守層を中心に支持を集めて世論調査の支持率では野党のムン・ジェイン氏に次ぐ2位につけていました。 

少なくともこれから行われる韓国大統領選挙で数少ない親米寄りの候補者の一人だったのですが、対立候補支持者からの妨害や日韓合意についての過去の発言から非難され、立候補を断念した形になります。

そのような中で注目されるのは残りの候補者リストですが、ほとんどの候補者が中国・北朝鮮寄りであり、日韓合意破棄を明言していたり、米国のミサイル防衛システムTHAADを配備しないことを明言していたりと、日本の安全保障に非協力的な候補者が支持を集めています。

文在寅(ムン・ジェイン)共に民主党前代表はもっとも大統領になる可能性が高いと言われている候補者です。中国寄り、北朝鮮寄り、日韓合意破棄、アメリカとの安全保障に非協力的です。

李在明(イ・ジェミョン)城南市長は韓国のトランプと言われている人物です。過激な発言でマスコミの注目を集めて支持を得ている人物です。韓国版橋下徹と個人的には考えております。ムン候補と同じ中国寄り。

安熙正(アン・ヒジョン)忠清南道知事は盧武鉉元大統領の最側近と言われた人物です。上の二人と同じく左派。

そしてパク氏の出馬断念により、注目されているのが安哲秀(アン・チョルス)国民の党前代表です。若年層から支持されているようです。中道の傾向です。

そして黄教安(ファン・ギョアン)大統領権限代行首相にも注目が集まっています。まぁ本人が立候補するかはとても微妙ですが。

可能性としてこの5人の候補者をリストアップしましたが、事実上のムン候補の1強状態が続いており、そうなれば日本との関係改善は遠のくことになるでしょう。

韓国大統領選挙の動向に注目です。